「顎関節症」とは

日本顎関節学会による「顎関節症の定義」では次のように説明されています。
「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靱帯障害、関節円盤障害、変形性関節症などが含まれている」

簡単に言うと、あごの関節(顎関節)周辺に何らかの異常がある「あごが痛い」「あごが鳴る」「口が開けづらい」などが主な症状である慢性的な疾患で、原因はいくつかあり状態も異なるが、まとめて「顎関節症」と呼ぶということです。

顎関節症の患者は、ここ十数年で15倍にも増加したとも言われます。
子供~高齢者まで幅広くみられる病気ですが、年齢では10代半ばから増え始め20~30代がピーク、女性は男性の2~3倍の来院数だそうです。
なぜ女性が多いのかはよくわかっていませんが、女性の方が筋肉の緊張やストレスに対して感受性が高く痛みに敏感で健康にたいする関心が高い、男性よりも骨格や靱帯が弱い、女性ホルモンに関係がある、などの説があります。
年齢的には、10代半ば頃から増加するのは歯や骨格が成長し大人になる時期であること、精神的にも思春期であり社会的な生活も複雑になるためなど言われます。しかし、近年患者数が増加していることを考えると、最近の若年層に顕著な食習慣、生活習慣などにも関連があると考えられるのかもしれませんね。

軽度の顎関節症はしばらく様子を見ていると治ったというケースもありますが、治療せずに放置してしまうと、さらに症状が悪化してしまうこともあるため、気になる症状がある時は早めに医療機関を受診しましょう。

女性に多い顎関節症

顎関節症の原因

さまざまな原因が考えられますが、歯の噛み合わせの異常による場合が多いようです。また原因は1つではなく、複数の原因が複雑に重なっていろいろな症状が出ることも少なくありません。

TCH中でも、歯列接触癖(TCH=Tooth Contacting Habit)は顎関節症を発症するリスクを高くすることが分かってきました。TCHとは、上の歯と下の歯が接触している、つまりずっと弱く噛みしめている癖のことです。
食事をしている時を除くと、上下の歯が接触していい時間は1日約20分と言われています。本来は口を閉じている時、上の歯と下の歯は2~3mm離れていないといけないのです。TCHにより長時間、上下の歯が接触していると、顎の関節や筋肉に負荷がかかり続け、やがて顎関節症を発症してしまうと考えられています。
TCHは癖ですので、その癖を改善することにより顎関節症の症状が改善に向かうことがあります。

顎関節症の主な症状

症状はよくなったり悪くなったりを繰り返します。意識的に生活習慣を変えることにより症状が改善することもあります。

  • 口を開け閉めすると顎関節が痛い
  • 食事をしていると顎がだるい
  • 口を開けたり閉じたりする時にカクカク音がする
  • 口がスムーズに開けにくい、違和感がある

 顎関節症の治療法

  1. 薬物療法
    消炎鎮痛薬や筋弛緩薬など
  2. スプリント療法(マウスピース)
    マウスピースを装着することにより、顎関節の負担を軽減します。歯ぎしりや食いしばりの力を弱め、歯や顎関節、周辺の筋肉の緊張緩和を図ります。
  3. 理学療法
    咀嚼筋マッサージ・レーザー治療・開口訓練・ストレッチなど、血流を促進して痛みを緩和します。
  4. 生活習慣の改善
    TCH、歯ぎしり、食いしばり、頬杖、片側での噛み癖、うつぶせ寝、スマホ・パソコンの長時間利用、スポーツ、楽器の演奏、緊張感やストレスなど

顎関節の構造

顎関節は左右に一つずつあり、頭の骨のくぼみに、下顎の骨の突き出た部分がはまり込むような構造になっています。顎を動かしたときによく動く両耳の前の部分が顎関節です。
頭の骨(側頭骨)のくぼみは、耳のすぐ前あたりにある下顎窩(かがくか)というへこみとその前にある関節隆起という出っ張りから成っています。そのくぼみに下顎の骨のつき出た部分、下顎頭(かがくとう)がはまり込んでいます。
下顎窩と下顎頭の間には関節円板というクッションの役目をする組織があり、骨同士が直接こすれ合わないようになっています。
関節円板はコラーゲンという膠原繊維でできている野球帽のつばを狭くしたような帯状のもので、その端は下顎頭の内と外に連結されていますが、前後にはあまり強く連結されていません。

下顎窩のくぼみと下顎頭の間にはさまれるように位置し、顎の動きにつれて下顎頭の内と外の連結部分を軸にして前後に回転し、下顎頭の先と一緒に動いて口の開閉時の圧力を吸収しスムーズに動けるようにする働きをしています。
これらの関節組織は関節包という線維性の膜に取り巻かれており、関節包の内面には滑膜から滑液が分泌されて
いて、潤滑油の働きをするとともに関節円板や骨の表面の線維軟骨に栄養を運んでいます。
関節包の外側には外側靱帯があり、上下の骨を連結しています。

顎を動かす筋肉

①開口筋
口を開けるのに使う筋肉。首の前(顎の下)にある前頸筋(舌骨上筋、舌骨下筋、胸鎖乳突筋)
②閉口筋(咀嚼筋)
食べ物を噛むのに使う筋肉。咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋
③頸筋
食べ物を食いちぎったり、しっかりとらえるために使う筋肉。前頸筋(舌骨上筋、舌骨下筋、胸鎖乳突筋)、後頸筋(僧帽筋など)

顎関節のうごき

①口を開けるとき
口を開けようとすると、下顎頭は回転し下顎窩から外れて前に滑り出す。関節円板も下顎頭の上に乗って一緒に前に移動する。
※下顎頭が下顎窩から外れて前に移動することにより口を大きく開けることができる
②口を閉めるとき
下顎頭は後ろに移動し、下顎窩の中に収まる。関節円板も一緒に後ろに移動して元の位置に戻る。
③食べ物を咀嚼するとき
下顎を左右に動かす必要があるため、左右のどちらか一方だけ下顎頭が前にすべり出し、この連続で食べ物を噛む。

関節円板はズレやすい

関節円板は前後の連結がゆるやかになっているため、前後に動きやすく、関節円板の後部組織が伸びやすい構造になっています。関節円板が前後に動いているうちに後部組織が伸びてしまい、関節円板が前方にずれたままになってしまうと、口を開け閉めするときに「カクカク」音がしたり、口が開けずらくなる症状が出てきます。

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